山脈の記憶を纏う、原始布の力強さ。
雪深い山々で育まれたシナノキ。その靭皮(じんぴ)繊維から生まれる「科布(しなふ)」は、自然の峻烈さと、人の手による気が遠くなるほどの忍耐が生み出す、類稀な質感を持っています。
灰汁で煮、手績みで紡ぐ。
採取した皮を灰汁(あく)で煮出し、指先で細く裂いて繋ぎ合わせていく。そうして一本の糸へと紡がれた科布は、非常に強靭で耐水性に優れ、年月を重ねるほどに肌に馴染んでいく頼もしさを備えています。
松煙染(しょうえんぞめ)が描く、静謐なる意匠。
この力強い地組織に施されたのは、伝統的な「松煙染」です。 松の脂分から生じる煤(すす)を膠(にかわ)で丹念に練り、豆汁(ごじる)と混ぜ合わせて染めるこの技法は、化学染料には出せない独特の深みと、沈んだ墨色の濃淡を生み出します。型染めによって浮かび上がる「宝相華唐草紋」は、科布のザラりとした質感と相まって、立体的かつ神秘的な表情を放ちます。
季節を超えて愛される、確かな存在感。
その野趣あふれる風合いは、盛夏の装いはもちろん、単衣の時期にも確かな品格を添えてくれます。 自然の恵みと、先人の知恵が凝縮された、まさに「一生もの」と呼ぶに相応しい一条。 時代に流されることのない意匠の妙と、原始布の持つ生命力を、ぜひ貴方様のお手元にてお確かめください。



